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静岡家庭裁判所 昭和54年(日記)163号 審判 1981年4月30日

申立人 上田義人

相手方 篠原洋子 外九名

主文

本件再審申立を却下する。

理由

1  本件再審申立の理由は当庁昭和四八年(家)第六五八号遺産分割審判事件(以下本件事件という)の遺産につきなされた鑑定料が不正であること、即ち、同鑑定料の算定方法中、加算額と割増料とは内容が同一であり、二重取りの不正をなしているものであること、従つて、それに基づく本件事件に関する遺産の鑑定(以下本件鑑定という)、更には遺産の評価方法も無効であり、本件鑑定及び遺産の評価を前提とした本件事件の審判は同審判に影響を及ぼすべき重要なる事項につき判断を遺脱したもので民訴四二〇条の再審事由に該当するという趣旨のものと解せられる。

2  家事審判手続における審判についても民事訴訟法四二九条の準用ないし、類推適用があるものと解せられるので、以下申立人の再審事由について検討する。

(1)  本件事件の記録中の不動産鑑定士○○○○○各作成の鑑定評価報酬請求書並びに請求書及び当裁判所の支給決定その他本件事件の記録を総合すると鑑定人○○○○○は昭和五〇年一二月二四日本件鑑定をなし、その鑑定報酬請求額は二四〇、〇〇〇円であり、その算定方法は次の通りであることを認めることができる。

(イ)  基本報酬額

(鑑定評価額) (料率) (加算額)

65,119,900円×12/10,000+92,000円 = 170,000円

※但し、鑑定評価額は全物件の総合計を前提に算出した。

(ロ)  割増料金(要手数物件割増料)

(基礎となる金額)(料率)

170,000円×50% = 85,000円

(ハ)  日当(不動産鑑定士及び士補、補助者の日当) = 30,000円

(ニ)  サービス=-45,000円

(ホ)  差引合計=240,000円

(2)  前記鑑定当時の財団法人不動産鑑定協会の不動産鑑定報酬規程によれば、不動産鑑定の基本報酬額は次に定める料率額によるものと認められる。

(イ)  評価額1千万円までの部分 60,000円

(ロ)  〃 1千万円超5千万円までの部分 23/10,000

(ハ)  〃 5千万円超1億円までの部分 12/10,000

(ニ)  〃 1億円超5億円までの部分 4/10,000

(ホ)  〃 5億円超25億円までの部分 2/10,000

(ヘ)  〃 25億円超の部分 1/10,000

(3)  本件鑑定に前記料率額を適用して基本報酬額を算出すると次の通りである。

前記鑑定評価額65,119,900円のうち

(イ)  (最初の評価額1,000万円までの部分)  = 60,000円

(ロ)  (1千万円超5千万円までの部分) 4,000万円×23/10,000 = 92,000円

(ハ)  (5千万円超1億円までの部分) 15,119,900円×12/10,000 = 18,143円

(ニ)  合計額((イ)+(ロ)+(ハ))  = 170,143円

(4)  上記(3)の基本報酬額の算出方法を簡式化した速算法による計算方法が前記(1)(イ)の方法である。

(5)  以上要するに、基本報酬額算定については鑑定評価額に対して単一の料率を適用する単純累進法によるのではなく、鑑定評価額を数個の段階に区分し、各段階に漸次累進する料率を適用して各段階の合計額を基本報酬額とする超過累進法をとつていることが認められるのであつて、前記加算額は前記超過累進法の適用を簡式化した場合のいわば調整額と言うべきものである。

従つて、前記加算額は前記割増料金とは異なる内容のものである。

(6)  なお、基本報酬額は前記不動産鑑定報酬規定によれば一地点ごとに前記(2)に記載した料率額を適用して各基本報酬額を算出し、その総合計が当該基本報酬額になるところ、社団法人日本不動産鑑定協会の不動産鑑定報酬規程取扱要領によれば一地点とは筆数、棟数に拘らず一か所にまとまつた鑑定評価の対象をいい(これを一物件ともいう)、本件鑑定において各地点別の鑑定評価額に前記料率額を適用して各基本報酬額を算出し、その合計額により本件鑑定の総基本報酬額を算出すると本件鑑定の如く全物件の総合額を鑑定評価額の基準とする場合より遙かに多額の基本報酬額に達することが推認できる。

以上の理由を総合すると前記鑑定報酬請求額は不正とは云い得ない。

3  よつて、前記加算額と割増料金とが同一内容であるとして本件鑑定料金の不正を前提に申立てた申立人の再審事由はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 榎本豊三郎)

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